VC投資を受けるべきか?

HHです。私はSemester in San Franciscoに参加して、ベイエリアで活躍する大勢のWharton卒の起業家やVC投資家に会ったのですが、彼らの多くがおすすめの授業として挙げていたのが、Robert J BorgheseのLGST 813: Legal Aspects of EntrepreneurshipとDavid WesselsのFNCE 750: Venture Capital and the Finance of Innovationでした。ビジネスモデルやプロダクトデザインなどは、起業後にピボットして修正していくことができますが、ファイナンシングやリーガル関連の契約書は後から変更することができないため、取返しのつかない失敗に繋がる危険性があるからです。

Facebook創業者で30%の持ち分を持っていたEduardo Saverinが、Mark Zuckerbergと投資家から追い出され、0.03%の持ち分まで希薄化されてしまった映画のワンシーンが、「ファイナンスや法務の知識がない」ことの怖さを如実に物語っています。

 

どんなビジネスフォームで起業するか?

一般的に、「起業する」、というと創業者が無限責任を負うことを回避するために株式会社 (C Corporation) を設立するというイメージがあります。ところが、授業では、「株式会社は利益に対する法人税と、利益の分配に対する所得税が二重課税されるので、C-Corp設立は”特別な理由”がない限り後回しにするべき」と習います。実は、前述のFacebookも創業当初はLLC (Limited Liability Company) でした。

また、個人事業主 (Sole Proprietorship)や、パートナーシップ (Partnership)のように無限責任を負うビジネス形態でも、ソフトウェア会社が商品販売額を損害賠償のキャップとしているように契約によって責任を限定したり、各種保険を活用することでビジネスリスクを第三者に転嫁したりする方法があります。こういう話を、実際にスタートアップやPE/VCファンドをクライアントに持つ現役弁護士のBorghese氏が、豊富な実体験を交えて説明してくれます。” Tenants By Entirety”という配偶者を使った資産管理方法や、配偶者も信用できない人向けにデラウェア州の特殊な信託口座を使って個人財産を倒産隔離して守る方法など、法律のループホールを突くようなテクニックにも詳しくなれます。

この辺りの知識は、パートナーシップ制で運営されるコンサルティング会社や、GP/LPストラクチャーを使った投資ファンドで働く人にとっても有用な知識です。また、人生最大の不確実要因である「結婚」についても貴重なリーガルインサイトを得ることができます。

 

「株式会社」を設立すべき時

起業において、どうしても株式会社を設立しないといけないケース、というのは突き詰めていくと、「VC投資を受け入れる時」ということになります。Facebookが事業運営主体をLLCからデラウェアC-Corpに移管したのも、VC投資を受け入れるためでした。タックスパススルーエンティティであるPE/VCファンドにとって、投資先からの利益の分配はUBTI(Unrelated Business Tax Income)になって課税されてしまうためです。

Corporationを設立したので、無限責任から解放されると思ったら大間違いで、”Fiduciary Duty”をステークホルダーに対して負うことに変わりありません。このFiduciary Dutyという概念は、過去の判例に基づいて構築された英米法上の概念で、制定法を中心とする大陸法を採用している日本人には理解が難しいのですが、LGST813を受講し、様々なケースを読んだことで理解が深まりました。ちなみに、Facebookを追い出されたEduardoは、MarkのFiduciary Duty違反を突いて裁判を起こし、一定の株式を取り返しています。

 

創業者とVCのリスク・リターンの違い

創業者からすると、自らファンド資金を出資して同じボートに乗ってくれるVC投資家は救世主のような存在です。しかし、FNCE750を受講して、VCファイナンスにファイナンス理論のレンズを当ててみると、創業者とVCではリスク・リターンプロファイルが全く異なるということが見えてきます。

まず、一社に注力するしかないスタートアップ創業者と、分散投資が可能なVCでは個別案件に対するリスクが異なります。Facebookに最初に投資したAccel Partnersは$13Mを5年で250倍にしているのですが、ここまでは極端にしても、一般的なVCは、細かい成功を積み上げていくことよりも、投資リターンが10倍以上になる可能性のあるスタートアップを発見し、育てることに注力し、その可能性が無くなったポートフォリオ企業には注力しない、という投資方針を持っています。起業家コミュニティでの評判が、VCの中長期的な成功にとって大切なので、VCが急に投資先サポートをやめるということはありませんが、ベンチャーキャピタリストが使える時間は限られているということを覚えておく必要があります。

また、創業者が持っている普通株と、VC投資家が持っている優先株も同じ価値ではありません。例えば、VCが出資する優先株には、投資のダウンサイドを守るため、Liquidation Preferenceというオプション条項が入ることが慣習になっています。オプションの価値をブラック・ショールズモデルで計算してみると、VCから高バリュエーションを勝ち取っても、オプション条項で譲歩してしまうと損することさえあるということがわかるようになります。私がシリコンバレーのVCでインターンしていた時も、Liquidation Preference等の優先株メカニズムが原因で、創業者と某VCのExitに対する意見に相違が発生しているというケースを目にしました。

従って、VC投資を受け入れる時は、Bootstrapでは実現できない急成長をVC投資家と一緒に目指すという覚悟が必要です。

 

あなたが、創業株をもらったら

MBA卒業直後のように、通常、あまり現金がない状況で、スタートアップの創業に参画し、Vesting付きの創業メンバー株を取得した場合に、絶対にした方がいいのが、83(b) electionです。詳細の説明は省きますが、これを忘れると、現金がないのに多額の納税義務が発生する危険があるので気を付けてください。

最後になりますが、実は、Wharton卒業生のほぼ全員が、人生のどこかで起業に参画することになると言われています。個人事業としてコンサルティング・プロジェクトを受託したり、プライベートの資産管理会社を作って投資をしたり、NPOを立ち上げて理事になったりすることも、広義の「起業」で、これからの時代、複数の仕事をしていくことが当たり前だからです。

旬なビジネスモデルやテクノロジーは日々変わり、マーケティングの方法論にも流行り廃りがありますが、「起業」に関わる法体系やファイナンス体系は、長い歴史の中で形成されていて、急激に変わるものではありません。一度身に着ければ、ずっと使える知識なので、是非受講してみてください。