在校生ブログ

COURRiER Japon「ウォートンに聞け! 」なぜ「起業」が“当然の選択肢”なのか?

2017.12.03 Category:課外: 起業/ビジネスコンペ

2016年4月からCOURRiER Japonにて連載の「ウォートンに聞け!」最新記事は、Wharton内での起業に対する認識についての在校生レポートです。Whartonは、Financeで有名という印象がある方もいるかもしれませんが、記事内にもある通り、学生の起業に対する意識は非常に高く、リソースや機会にも多く恵まれています。現在2年生のWharton生が、実体験をもとに、Whartonで起業を志す学生の生活を紹介させていただきましたので、ぜひご一読ください!

【COURRiER Japon 連載】ウォートンに聞け!

なぜ「起業」が“当然の選択肢”なのか?

嶋原佳奈子 沖縄県生まれ。2009年京都大学総合人間学部卒業。同年、伊藤忠商事株式会社入社。情報通信部門にて出資先の事業開発に従事した後、2013年よりNPO法人クロスフィールズにて組織運営、および新興国NPO支援と日本企業の人材育成プログラム構築に携わる。2016年ウォートンスクール入学、2018年MBA取得予定。

PHOTO: THE WHARTON SCHOOL, COURRiER Japon

2015年、米大手ビジネス誌「ファスト・カンパニー」は、オンラインメガネ販売の「Warby Parker(ワービー・パーカー)」社を、世界で最もイノベーティブな企業に選出した。50位までのランキングで、グーグルやアップルを抑えてのトップだった。

同社は、ウォートン在籍中だったMBA学生4人が2010年に起業したスタートアップだが、現在の時価総額は12億ドル(約1370億円)に達すると言われている。

ファイナンススクールのイメージが強いウォートンだが、じつは、事業創造やイノベーションに力を入れている(ちなみに、テスラやスペースXの創業者である世界的な起業家、イーロン・マスクもウォートンの学部卒だ)。
今回は、ウォートンで起業プログラムを体験した日本人留学生のレポートをお届けする。

「Penn I-Corps」に応募したチームメンバーと(右から2番目が著者) Photo: Kanako Shimahara

 

「起業は一大決心し、リスクをとって進む道」という印象を以前は持っていた。だが、ウォートンの事情はかなり違う。

ワービー・パーカーの創業者が、夏休みには自分たちのスタートアップにコミットせず、企業でインターンをやりながら就職活動をしていたように、「起業」は当たり前に存在する1つの選択肢であって、他のオプションと比較検討されるものなのだ。

私自身も、総合商社から設立間もないソーシャル・ベンチャーに移った経験があり、ウォートンへの入学以前からスタートアップへの関心は強かった。

それでMBA留学の2年間は、リスクフリーに物事を試せる時期でもあって、友人たちと学校のリソースを最大限活用しながら、アイディアのビジネス化にチャレンジした。

ウォートンは、起業に関心を持ち、実際にアクションを起こす学生が多い。私と同じラーニングチーム(課題に一緒に取り組む班のようなもの)の6名のうち、私を含めて3名が起業に関心があった。

まず「挑戦」してみること

名門アイビー・リーグの一校で、米国最古のビジネススクールを自負するウォートンは、予想以上に授業の課題も多く、学業の負荷が大きい。起業に興味があっても時間がない……かと思っていたら、入学早々、とあるきっかけが訪れた。

学内で女性を中心としたスタートアップのピッチコンテストがあり、ラーニングチームのメンバーと一緒に挑戦したのだ(ちなみに、女性の学生が4割強を占めるウォートンでは、女性のエンパワーメント・イベントが活発に開かれている)。

出会って間もない仲間とアイディアをひねり出し、書類審査を突破して、100名超の来場者を前に数分間のピッチ(短いプレゼン)をおこなった。会社設立済みの強豪チームも参加するなか、残念ながら入賞にはいたらなかったが、ビジネスプランのピッチに対するハードルを下げることができて良かったと思う。

ピッチで提案したのは、メンバーみんなで考えた「Polar News」という名前のニュース・メルマガで、政治などのトピックについて立場が正反対の記事を対比させて、異なる視点を同時に提供するというものだ。

SNS時代の「エコーチェンバー現象(価値観の似た者同士だけで交流することで、特定の意見や思想が増幅されること。攻撃的な意見や誤った情報を広める一因にもなるとされる)」に問題意識を持って考えたサービスだった。

その後、メンバーの1人はこのときのアイディアを追求し続けて、いまでは10万人近い読者を集めるメールマガジンのサービスを運営している。

「起業プロセス」を学べる場

ウォートンには「Entrepreneurial Management」というコースがあり、
「Innovation」、「Entrepreneurship」、「Product Design」といった起業に関する授業を、経験豊富な教授陣が実践に近い形式で教えている。

たとえば、「Innovation」を担当するカール・アーリック教授は、複数の企業を創業し、24の特許を持ち、その著書は世界中の学生の教科書になっている有名人だ。彼の授業中にビジネスアイディアの着想を得て、起業した学生も多い。

私も、1年生の後半に「Innovation」を受講し、イノベーションの切り口について授業で学びながら、実際の具体的なアイディアをひたすら考えつづけた。そして、そのアイディアに対してのフィードバックを授業中にもらう、というプロセスを繰り返し、可能性の高いアイディアを絞り込んでいった。

ちなみに、ウォートンでは授業以外にも、賞金1500万円をかけた「Startup Challenge」や、「Y-prize」というペンシルベニア大学横断のビジネスコンテストなど、アイディアを競う機会が頻繁にある(ウォートンは、ペンシルベニア大に属するビジネススクールだ)。

Innovationのクラスでアイディアを絞ったら、次のステップは“仲間探し”だ。まず、スタートアップに興味のあった同級生を誘い入れ、それからさらに、学内のイノベーションセンターの「Penn I-Corps」に応募した。

「Penn I-Corps」のワークショップはとても実践的だ Photo: Kanako Shimahara

「思い込み」を捨てる

 

Penn I-Corpsとは、ペンシルベニア大学が持つ技術の商業化を目的としたインキュベーションプログラムで、選考に通ると、数ヵ月間の支援が受けられる。

ベンチャー投資家など経験豊富なアドバイザーから、アイディア具現化のプロセスについてフィードバックを受けられたり、30万円の資金がもらえたりするのだ。

無事にI-Corpsの選考に通ったのちは、重点的に“顧客探し”を始めた。というのも、アイディアや技術を考えているときは、ついつい無条件で「顧客がいるはずだ」と思い込んでしまうからだ。

その結果、「誰のどんなニーズを満たせるのか?」、「そもそもニーズがどれくらい存在しているのか?」、「ユーザーは本当にお金を払う用意があるのか?」、といった重要なポイントを見極めないまま、プロトタイプづくりに先走ってしまう人が多いという。

私たちのアイディアは、「小さな子どもが発達障害の可能性があるかどうか、オンライン上で臨床データに基づいて評価する」というもの。

まずは小さな子どもを持つ親や、小児科医、発達障害研究者など、約30人にインタビュー。そしてターゲットとなるユーザーやマネタイズの方法を具体的に検討し、ニーズを確認できてから、プログラミングができるウォートン生を仲間に引き入れて、プロトタイプづくりに着手した。

パーフェクトな「仲間」たち

現在もプロトタイプをブラッシュアップしている途中だが、やっぱり経験によって学べることは大きいと思う。特に、次の3つが大切だと知ったことは、貴重な学びだった。

1. どれくらい、自分たちが情熱を傾けられる事業なのか。

2. どうして、自分たちが他の誰よりも上手に、そのサービスを提供できるのか(これは投資家が特に重要視するポイントだ)。

3. どうやって、効果的に“仲間”を巻きこんで、多様性のある良いチームをつくりあげるか。

この3つは、起業のプロセスでたびたび問われることでもある。

「ウォートンの同級生はパーフェクトな存在だった。

だって、スタートアップでは“初めて遭遇する事態”に対処しなくてはならないことも多いけど、そんなときに似たような経験のある人が必ずいて、話を聞くことができる。もちろん、教授のヘルプだって得られる」

こう語るのは、私が1年生だったときの「Student Life fellow」として、相談役を務めてくれた2年生の先輩だ。彼女は、マッキンゼーのコンサルタントを経てウォートンに入学し、夏休みにはプライベート・エクイティ・ファンドでインターンをしつつ、最終的には起業の道を選んだ。

「これがダメでも、他にも道はある」というスタンスだったからこそ、彼女は納得のいく形で“リスクのある選択肢”を取れたのだろう。

彼女が立ち上げた「Harper Wilde」というブラジャーのオンライン販売サービスは、いまやライドシェア大手「Lyft」と共同プロモーションをおこなうまでになっている。

彼女の言うように、ウォートンには起業をサポートするリソースが充分にあると、私も思う。それをどう生かすかは、私たち次第なのだ。

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