BLM運動と黒人差別について(在校生インタビュー #4)

ジョージフロイドが警官の暴行により死亡した事件を受け、アメリカでBlack Lives Matter(以下BLM)運動が盛んになっています。実際ウォートンのあるフィラデルフィアでも暴動が起き、外出禁止令が出される事態となりました。黒人が国民の13%を占める国における人種(黒人)差別。この問題についての日本語での資料、特に当事者目線でのものが少ないという問題意識から、クラスメートへのインタビューを通じて生の声を日本語で届けようと今回の記事を企画しました。在校生を紹介する記事の第4回目でもあります。

  • 今日はインタビューを受けてくれてありがとう。まずは簡単に自己紹介してもらえるかな?

僕の名前はCam Maple。アメリカのいろいろな場所で過ごしてきたんだけど、元々はパセデナ(Pasadena)というロサンゼルスの都市で育って、その後いろいろな都市を転々として、小学校5年生の時にフィラデルフィアの郊外に引っ越してきた。

学部ではプリンストン大学で公共政策を専攻し、人種と差別、原発の将来、ヘルスケア、その他の公共政策について勉強していた。プリンストンでは多くの学業以外の活動もしていて、大学内外での人種差別問題に対して学内で抗議活動をするというのもその一つだった。

大学卒業後はFacebookに就職し、ブラントパートナーシップの部署で働いた。4年間Facebookで働いた後キャリアチェンジのためにWhartonにきた。ビジネススクールに行くことが常に僕の目標の一つだったからね。

  • ありがとう。早速だけど、なんで最近BLM運動がアメリカでこれほどまでに広がっているんだろう?

この問題は深い問題で、一人の人が答えられるようなものではないが、僕はこれまで黒人差別について勉強してきたので、それを基に答えたいと思う。

そもそも、アメリカにおいて「人種」とは何百年もの黒人差別の歴史にほかならない。

一つ覚えておくべきなのは、アメリカにおいて「人種」という言葉が差別のために社会的に作られたものであるということだ。これまでアメリカにおいて「人種の違い」という概念は、生物的な違いに基づいた考えではなく、差別や奴隷制度を正当化されるための手段であったと言える。奴隷制度はアメリカが資本主義社会において成長する上で大きな役割を果たしてきた。1619年に初めての奴隷がアメリカに連れてこられたとされているが、1500年代にはアメリカに奴隷として連れてこられたアフリカ人がいたとも言われている。1860年代に制度上は奴隷制度が廃止されたが、それ以後も様々な方法で事実上奴隷制度が続き、人種差別が行われてきた。

最近のBLM運動を理解するためにはこれらの歴史について理解することが欠かせない。BLM運動は実は2013年に始まった比較的新しい運動だ。近代の市民権運動とも呼ばれるこれらの活動は新たな黒人の自由解放運動といえる。BLM運動の歴史自体は浅いが、実際はアメリカ建国から続く長い黒人をめぐる対話の一部に過ぎない。

もう一つ見逃してはならないことは警察組織による黒人への残虐行為だ。知らない人もいるかもしれないが、アメリカの警察組織はコミュニティの夜警団や奴隷の逃走を防ぐための組織を起源としている。これらの組織が税金で運営されるようになり、今我々が目にする警察となっている。その組織が黒人の投票権を奪ったり、場合によっては黒人を殺害することもあった。

  • なるほど。今年起きているBLM運動というのは今まで歴史的に起こってきた運動と何か違いはあるのだろうか。

このような運動は黒人だけではなくて黒人以外のアライ*も含めて永遠とも思えるような長い間行われてきた。ただ今回の運動はこれまで以上に広範囲にわたるもので、多くの人が警察の残虐行為に対して反対していることが特徴だ。ただし、このように幅広いサポートがあり、警察の残忍性に対しての声が上がってはいるものの、アメリカの人種差別の概要についての理解はまだ足りないと思っている。警察だけではなく本質的には全ての組織が精査され見直される必要があるんだ。これまでアメリカで作られてきた組織は黒人が白人に劣るという考え方を持った人によって作られたものだし、そのような考え方が黒人投票権の剥奪や差別主義につながってきた。

* アライ(Ally) – 差別解消に当たって共に協力する人たち。日本では「LGBTアライ」という意味でも使われる。

現在のBLM運動が国家的に活発になったきっかけについても触れておきたい。知ってると思うけど最近の運動はジョージ・フロイドが警察官によって7分46秒もの間首を膝で押さえつけられた後に死亡したことに端を発した。

黒人たちはこれまでも警察の暴力や警察が周りにいることで感じる不安、しばしば黒人が警察官によって殺されることについて抗議してきた。実際アメリカでは黒人というだけで他の人種であれば呼び止められもしないであろうことで職務質問を受けるし、ときにはジョージ・フロイドのようなことも起こる。同レベルの犯罪で警官に呼び止められた際、黒人男性の方が白人男性よりも警官に殺される確率が3.2-3.5倍高いとした研究もある。

ジョージ・フロイドの件でいえば、彼は偽装紙幣の使用を疑った店主によって警官が呼ばれて暴行を受けたが、公表されているビデオからは彼が常時警官に協力的だったように見える。僕の個人的な考えでは、他の無実の黒人が殺されてきた事象はこれまでにも多々あったし、黒人はみんなそのことを認識しているが、今回の事件はそれがビデオによって公になったことで問題が明らかになり、特に白人にとってショックな出来事だった。そしてそれが引き金となって今回の動きを生み出しているのだと思う。ただし全国民がこの運動に賛同しているわけではないことも事実で、実際SNSでも首を膝で押さえつける振りをして揶揄をし、警官の行動を正当だと主張する動画が挙げられたりしている。これは難しい問題だし、まだ全員の賛同を受けられているわけではないということは考えるべき重要なことだ。

また団結をする際は行動が伴わなければいけないということも伝えたい。現在前例のない団結が生まれているが、ただ団結することに満足せずに実際に変化を生み出すために動いてもらいたい。

  • 行動として最近は銅像の撤去や学校名の変更などが行われている。これについてはどう思う?

まず国民的感情から考えてみよう。人種差別は間違いで、警官による暴力もやりすぎだ、という方向性で世論は動いている。それを受けてこれまで差別によったシステムを採用していた組織や機関が名前の変更などに動いていることは確かだが、まだそれ以上の動きにつながっているとは言い難い。

僕個人の考えとしては、もしこの動きが加速していかないのであればこれまでの動きも各組織の広報活動の一部に過ぎないと思う。これまでの動きは問題の根本的な解決には程遠いし焼け石に水だ。本当に意味のある改革を行わず、自己の罪悪感を和らげるための声明をしたに過ぎないかもしれない。このような銅像の撤去などの決定は改革のための第一歩であるのかもしれないが、これ自体に黒人の経験が実際に変わるような意義があるとは思っていない。むしろこれらが世論の批判を避けるための広報活動の一環として行われているのではないかと危惧している。

  • これまではニュースで出ているような事項について聞いてきたけど、もう少し個人的な質問をしてもいいかな。

もちろん

  • Camは大学でも黒人差別に関する運動をしていたと聞いたけどこれについてもう少し詳しく教えてもらえるかな?

まずこれはとても複雑な問題だということに触れておきたい。数多くの米国組織が現時点で存在する黒人差別を守るためにできている。この問題に取り組む上で僕にとって最初のステップは自分を教育することだった。ハリウッド映画や音楽は影響力を持つが必ずしも現実を反映しているとは限らない。だから自分を教育するために黒人にまつわる事実について調べるということが第一歩だった。そしてそれ以降は自分が関わってきた組織、環境において人種差別を減らす行動を起こしてきた。大学では活動家として校内の様々なデモを主導してきたし黒人学生の生活改善のために設立されたいくつかの組織にも参画していた。学校の理事に対して黒人にとってより包摂的な環境になるように働きかけたり、下級生の黒人学生のメンターになったりしてきた。

Facebookに就職してまず最初に行ったのは「Level up」(今はElevateと呼ばれている)というプログラムの設立だった。Facebookで働く中でマイノリティーのビジネスオーナーを助けることに大きな機会を感じていた。そこで他の優秀な同僚たちとともに、彼らビジネスオーナーに広告についてのトレーニングをすることにしたんだ。会社から資金をもらい、彼らにFacebookやインスタグラムを利用して事業を拡大させるトレーニングを行った。僕にとって資本というものの大切さについて思い知らされる出来事だったし、マイノリティ、特に黒人の事業をサポートすることは彼らが自由になるための第一歩だと強く信じている。業務外の時間もこの活動に多くの時間を捧げてきたし、現在このプログラムは数千のスモールビジネスをサポートしてブランド構築に一役買っている。

Whartonに入ってからもこの問題をどのように広め、変えてくるかについて常に考えてきた。たくさんのクラスメートと個人的に話をしてきたし、このインタビューのような機会が増えていくことを望んでいる。また、将来的に世界を引っ張るであろうクラスメートがこの問題を真剣に捉えることが、社会を変えるために役立つと信じてる。

  • プリンストンとWhartonで違いはあるだろうか?

プリンストンでは「Race is Socially Constructed: Now What? (Prof. Ruha Benjamin) 」という授業を受けた。彼女はTED talkをしたり、を出版したりしているのでも是非観て(読んで)欲しい。この授業のなかで彼女は人種差別のある組織をリンゴ果樹園に例えたんだ。ちなみに日本のリンゴ園がどのくらいの大きさかわからないけどアメリカの果樹園はとても大きいんだ(笑)。アイデアは、果樹園はリンゴがなくても存在しうるというものだ。同様に人種差別が組織そのもに根付いていて、それは人種差別主義者の存在にかかわらず成立していることがある。差別主義者を減らすことのみならず、システムそのものを変えることにも注力するべきだという主張だ。

プリンストン大学もペンシルベニア大学も歴史ある大学だし、黒人が白人と同等と見なされていなかった時代に設立されている。だから平等性の欠如と言うものが刻み込まれていると思うし、システムとしてその根本を変える必要があると思う。もちろん細かい差はあるし、平均年齢の違いもあるから今のクラスメートの方がより大人だけどね。

  • 差別問題はアメリカの抱える一つの大きな問題だと思う。Whartonの必修授業ではこの問題が扱われてこなかったけど、アメリカ国外からきた学生も多くいる訳だし、アメリカの歴史を取り上げて議論するクラスが一つはあってもいいと思うな。

本当にその通りだと思う。まさに学校に是非変えて欲しい部分の一つだ。必修授業は学校として何をビジネスリーダーが持つべき素養と考えているのかを表していると思う。金融、マーケティング、法律などは教えるべき大切な要素だとは思うけど、ダイバーシティを重んじ、海外からの学生も多く受け入れる学校としては人種差別について学ぶことも大切だと思うよ。もしそのような機会があれば、いつか人種差別問題を学んだWharton生が世界各地で社会を引っ張る存在となり、社会を変えられるかもしれないよね。

  • 個人的な話についても聞いていいかな?アメリカで生まれ育つ中でどのように差別というものがCamや周りの人に影響を及ぼしたのか。

まず注意しておきたいのは、個人的な話というものはトラウマ体験として残っていることが多いから、こういう質問をする際には細心の注意を払って欲しい。

また、この問題の影響はその人の環境によって異なる。例えば移民一世かどうかや、アフリカ系か、カリブ海系か。僕の家族の場合は数世代にわたってアメリカに住んできた。

母親父親双方の家系での例を話そうと思う。僕の母親はテネシー州のオークリッジという小さい街で育った。この街はマンハッタン計画の前哨基地でもあった。1960年代に有数の科学者が次々とやってきて原爆開発に勤しんだ。当時は放射性廃棄物の処理のプロトコルなど存在していなかった。だから、これは実際に文書として残っている事実なんだけど、放射性廃棄物を生活用水の供給源に捨てたんだ。その生活用水は黒人によって広く利用されるものだった。母親によれば、汚染された水のせいで生まれた3つ頭のおたまじゃくしを見たりしたらしい。そしてその周辺に住む黒人は今でも後遺症に苦しんでいる。神経系の病気や高い癌罹患率などだ。このような国家計画による多大な影響について考えてみて欲しい。

父方の家系の話もある。僕の義理の曽祖父はテネシー州の小さな街でレストランが併設された雑貨店を経営していた。1970年の12月、遠くない昔だよね、に彼は頭を撃ち抜かれて死んでいるのが見つかった。彼の店は焼失していた。警察は人種差別とは関係ないとして処理したが、彼は黒人選挙権の活動家でもあった。1940年代から1960年代にかけて黒人の選挙権獲得に向けて活動していた。だから我々やそのことを知る人は白人ナショナリストグループによって殺害されたのではないかと信じている。

これらが2つの大きな問題だけど、これ以外にも例えば僕の父親は警察から嫌がらせを受けてきたし、僕自身も黒人だということで例えば店の中でいわれのない差別を受けたりしてきた。そのような経験がどんどん積み重って、僕自身も差別を受け入れながら生きていくことを学んだんだ。黒人だということで知能に疑問を持たれたり、目の前で差別的な言葉を投げかけられたり、差別的なことをいう教授や同僚もいた。アメリカで過ごす黒人の全てが何らかの形で差別を経験している。

これまでの経験から他人にどのように見られているかについて常に考えながら生きなければいけないということを学んできた。僕が黒人であったことで初めて差別を受けたのは6歳の時だった。僕は店でCDを手に取って母親のところに歩いて行ったんだ。それを見た母親は「何を持ってるの、そんなCD買わないわよ。元の場所に返しなさい」と言って僕にCDを戻させた。よくある親子の会話だよね。その後祖父母の家に帰ると母親が僕を風呂場に連れて行き、突然泣き出したんだ。母によれば、その店にいた白人女性が、僕がCDを盗もうとしていると責め立てたというんだ。小学生にもなっていない子供なのに。肌の色が違うというそれだけの理由で、僕らは脅威とみなされ、犯罪を犯すと思われるんだ。僕の母親はその事実を6歳の僕に教えようとしていた。6歳の子供にそんな話をすること自体悲しいことだが、アメリカで暮らす黒人は幼少期から皆似たような経験をしている。それ以降僕は店の中ではポケットに手を入れないように気をつけ、何かを盗んでいるように疑われないようにし、フードなどはかぶらないようにしている。これらは周りからの差別的な言動を受けて自然に身についた習慣だ。

  • この記事を読んでいるMBAを目指して将来社会のリーダーになるであろう人たちへ何かメッセージはある?

この問題について議論をし、学ぶことが大事だ。僕自身アメリカで暮らし、学術記事から学んでいるが、この問題は根深いし、日々刻々と変化するものでもある。差別記事などをもとに自分に問いかけ、深掘りしてみて欲しい。また、我々も日々差別の解消に向けて活動をしているが、それにも限界はある。より大きな力で動かしていくためにはアライの協力は必要不可欠だ。今回のような日本人による日本語でのインタビュー記事執筆は、我々だけでは伝えることのできない読者へメッセージを伝えることができるということで大きな意味があると思うよ。

これらの運動を実際の変化につなげていくことも大切だ。黒人たちは今までも変化を求めて運動してきたが、人々は、「それほど大きな問題ではない」「我々は改善している」「作り話だ」などと言って真剣に取り合ってこなかった、その結果みんな疲弊している。黒人でないアライの人々も声を上げることが実際の変化をもたらす上で重要な助けになると思う。

またこの問題は黒人だけでなく全員にとって公正な社会を作るという流れの一つだ。この社会は集合知や構成員の共同作業によって成り立っているわけだから、社会の全員が公平に扱われるようなものにしなければならない。

  • BLM運動について学ぶ上でどこから始めたらいいだろう?

まずは歴史的背景を学ぶのがいいと思う。どのようにアメリカが建国されて人種というものがアメリカ社会に影響を及ぼしてきたか。決定版のような本はないけれども。僕も今回の問題を受けてまとめている資料(READ, LISTEN & WATCH to SEEK DEEPER UNDERSTANDINGと書かれている部分)もある。まだ始めたばかりだけどね。Stamped from the Beginningという本もアメリカの人種の歴史について網羅しているからおすすめだ。その他にもあらゆる書籍や記事はあるから自分に合うものを見つけて読むといいと思うよ。

  • 最後に読者に向けて何か伝えたいことはある?

アメリカでの議論の中心は、黒人男性が警官に殺されたということに向けられている。Kimberlé Crenshaw教授が「インターセクショナリティ」という言葉で示したように、黒人の自由化について話す時は全ての黒人に目を向けることが重要だ。みんなにこのことについて考えて欲しい。例えばBreonna Taylorという女性がいて。彼女は睡眠中に警官に殺されている。ジョージ・フロイドの事件に比べて彼女についての議論はとても少ない。議論の多さの競争をするわけではないが、黒人女性も殺されているということ、黒人は性別によらず皆差別を受けているということを認識し、全ての人に平等に目を向けることが必要だと思う。

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いかがだったでしょうか。BLM運動というものが一過性の運動ではないこと、そしてアメリカという国で人種差別が長く根強く残っていることを受け止めていただけたのではないかと思います。BLM運動が盛んになったことをきっかけに私も黒人差別について勉強しはじめました。黒人差別についてまとめたHBSケース(英語)は歴史と共に様々な角度からの問題点がまとめられて理解に役立ちましたので、どこから始めたらいいか迷った方にははじめに読むものとしてお勧めします。

今回のインタビュー相手は私と同じコホート(必修授業を一緒に受ける約70名のクラス)のクラスメートです。これまでは少し会話をする程度でしたが、今回の企画を伝えたところ快く引き受けてくれ、インタビューから内容のレビューまで多くの時間を使ってもらいました。私自身は入学から1年が経過し残り1年のMBA生活となりますが、残りの1年はこのようにクラスメートと深く関わる機会を増やして行きたいと思っています。

Whartonに限らず、MBAを取られた方々と話すと、MBAでの一番の経験はクラスメートとの交流であるといわれる方が非常に多いことに気がつきます。その源泉は国籍や人種、仕事内外での経験などの多様性であると信じていますし、興味があれば是非海外のMBAを検討していただければ、そして願わくばWhartonも候補の一つに入れてもらえればと思っています。