在校生インタビュー #2 ~Rita Zhang~

Wharton MBA Class of 2021のYと申します。前回多くの方に在校生インタビュー記事をご覧いただきましたので、二回目のインタビューを実施しました。前回はコンサルティング会社出身の学生でしたが、今回は起業家です。

私のCohortメート、Rita Zhangは中国で起業した経験があり、会社を経営する中で限界を感じMBAで学ぶことを決めました。起業の経緯、Whartonでの学び、そして卒業後のプランについて、じっくり話を聞きました。

※尚、この記事は実施したインタビューの内容を基に執筆したものです。従って、記載内容はWharton SchoolやWharton Japan Clubの公式見解を示すものではなく、あくまで質問者、回答者の個人的見解である点、ご留意ください。また、インタビューは英語で実施していますが、同級生同士の会話を日本語で再現するためにフランクな表現を使っております。

バックグラウンド

― 今日は時間を取ってくれて有難う。まずは生い立ちから教えてくれる?

「中国出身。上海から車で2時間程の张家港という地方都市で生まれた。15歳までこの都市で育ったが、海外への憧れがずっとあった。16歳の時に交換留学のチャンスがあった。試験を通過した一握りの学生しか行けないプログラムだったが、勉強をして米国のミネソタ州に留学する権利を勝ち取った」

― ご両親から遠く離れての1年間、それもミネソタ州(米国北中部に位置する州で、人口における白人の割合が80%程度)。大変だったんじゃない?

「最初はとても大変だった。交換留学プログラムの運営側は現地に慣れさせるために学生に親に連絡させなかった。文化・言語に馴染めず、毎晩深夜2時まで泣いていた。高校で友達を作るのも難しかった。同級生は幼稚園からの幼馴染という間柄の人ばかりで、アジア人で英語も上手に喋れない私が突然輪に入れる訳もない」

― どのようにして精神状態を保ったの?

「留学生同士の交流に助けられた。皆私と同じような境遇にいて孤独だった。1~2週間に1度集まって色々な話をした。ホストファミリーはいい人達だったが、仕事等他にやらねばならぬことがある。お互い心を開いて全てを話すという間柄にはなれなかった」

― 状況はやがて好転していった?

「やがて学校で友達ができて、最初よりはよくなったけど、帰属意識が芽生えることはなかった。だから、多様性の高いカリフォルニアで、包容力のあるリベラルアーツ系の大学に行きたいと思った」

― 交換留学で大変な思いをしたのに大学でも留学志望か。中国で勉強しようとは思わなかったの?

「全く考えなかった。理由は2つある。1つは入試が大変である点。難関大学の入試を通過する為には多くの暗記を要するが、将来使わないであろう知識を詰め込むことに意義を感じなかった。ただ、当時の私の成績はとてもよく、高校入学試験の成績は約6,000人中5位だったので、勉強をすれば難関大学にも行けたと思う」

― その成績はすごい。

「もう1つの理由は、中国の大学での学習に価値を見出せなかったこと。多くの学生が受験で燃え尽きて、大学で遊んで時間を無駄にしてしまう」

― 日本でもそうだな。入試が大変だから、燃え尽きて遊んでしまう大学生が多いよ。

「とても残念なことだと思う。大学は、情熱をもって、将来の夢に向けて勉強するところなのだから」

― (自分の過去を大反省しつつ)その通りだね。因みにご両親から海外留学については反対意見はなかった?

「両親はとても協力的だった。実は両親は私をミネソタに送った直後とても後悔していた。私が苦しんでいたのを知っていたから。でも私は『これが私の選んだ道だ』と両親を説得して納得してもらった。なので、大学進学についても私の信じる道を応援してくれた」

― 素晴らしいご両親だね。そして念願叶ってカリフォルニアの大学に進学した。

「希望通り、リベラルアーツ系のPomona Collegeに進学することが出来た。ところが、半年経ったところで家庭の事情で中国に戻らなければならなくなり、休学した。ただ、その時に友人と共にビジネスを始めることとなった」

起業

― 何がきっかけで、どのようなビジネスを始めたの?

「地元で、海外での大学進学を志す高校生へのアドバイスを始めた。きっかけは、当時Harvardの大学院に通っていた友人が声をかけてきたこと。彼女は当時知人の子どもの受験プロセスを手伝っていて、私にも声がかかった。口コミが拡がり、ビジネスに展開できると思ったので友人と起業した。サービスの内容は、英語のReading・Writingの指導や、出願プロセス全体のアドバイス、自己認識を高めて目標を定めるカウンセリングサービス等」
― ちょっと待って、当時休学中だったんだよね?起業した後、学業を再開したの?

「実は大学には戻っていない。家庭の事情と、ビジネスの拡大を理由に中国に残ることを選択した。代わりに、通信教育を受けて中国の大卒の学位を1年半で取得した。全く典型的な学生生活じゃなかったから、ビジネススクール受験の時説明するのが大変だったよ(笑)」

― 通信教育を受けながら、友人と2人でビジネスを始めたんだね。

「実は共同創業者は起業から僅か1ヶ月半で離脱してしまった」

― え・・・。なぜ?

「Harvardの大学院に通っていた彼女は起業志向があったんだけど、実際のビジネスの経験が彼女の求めていたものとは違ったみたい。それで、Harvardに戻って学業とビジネスを両立しようと思っていたけど、結局時間的制約と時差の問題で手を引くことになった」

― 波乱万丈の船出だね。

「そう。だから学生の募集、カウンセラーの採用、そしてアドバイスの全てを自分でやらねばならず、本当に大変だった」

― 当時20歳ぐらいだよね?20歳でそういった業務を全てこなすのは想像を絶するよ。あと、面白いと思ったのはカウンセリングサービス。相手が高校生とはいえ、20歳がカウンセリングをするというのは並大抵のことではないと思うけど。

「実はカウンセリングを自分でやっていたわけではなく、米国で心理学を学んだ人を採用してカウンセリングを担当してもらった。でも、カウンセリングを高校生にやるべきだと考えたのは私。日本から来るMBA生もそうだと思うけど、中国から留学する若者は、文化・言語の問題で最初必ず苦労する。苦しんだときに『なぜ自分が今ここにいるのか』が分からないと苦境を乗り越える力が生まれない。それ故、海外留学をする前に自己認識と将来の目標を定めることがとても大事だと考えた。」

― カウンセリングのフォーマットは?

「4人のカウンセラーに対して18人の学生を集めて、1週間の集中講座を実施した。カウンセリングサービスは、競合にはない差別化要素であり、1週間の集中講座は画期的だと考えていた」

ー ビジネスモデルについてもう少し教えてもらえる?

「自分が持っている海外に留学した学生や卒業生のネットワークと彼ら/彼女らのリソースを、サービスを必要としている地方都市の学生とその両親に届けるというコンセプト。マッチングプラットフォームと言えば分かりやすいか。最初は地元で始めたが、サービス地域を北に拡大していった」

― Ritaが書いたLinkedInの記事を読んだんだけど、その中で「顧客が求めていないカウンセリングサービスを提供していることに気付かなかった」といった記述があったね。

「そう。『顧客が求めるサービス』と『私たちが提供したいサービス』を一致させることが如何に難しいか実感する日々だった。学生の両親は名だたるトップスクールに子どもを送り込むことだけを考えていた。でも、能力やフィットの問題があるから、全員が名門校に行って幸せになるとは限らない」

― その通りだね。フィットはビジネススクール選びにおいても重要だ。

「だから、時に私は両親に対して、『ご子息に合う学校は名門校ではない』と説得しなければならなかった。でも、両親は子どもの名門校に行ける可能性を信じたい。私と方針が合わないと思ったらすぐに競合をを利用した。また、カウンセリングサービスなど不要だと思っている両親が多かった。私は競合のサービスがいいとは思わなかったけど、競合は両親が求めているサービスを提供していたんだよね」

― 悩ましい問題だね。

「やがて、どういったサービスを提供すべきか、どのように会社を経営すればよいのか、どのように従業員を管理すべきか、といった疑問を持ち、沢山勉強した。そして、自分のビジネスが大きく拡大する可能性がないことを確信し、2年ほど経ったところで会社を売却することに決めた」

― 大きな決断だね。その時点で会社はどのような規模になっていたの?

「顧客である学生数は約80名。別途、オンラインで3,000~4,000人にワークショップを実施していた。ただし、多くの学生のアドバイスをするには採用を増やさなければならなかったので指数関数的な拡大は難しかった。また、業界を見てみると超巨大なプレーヤーが圧倒的な地位を占めており、私の会社は泡沫プレーヤーに過ぎなかった」

MBA出願

― 会社売却と同時にMBA留学を決めたんだね。

「そう。カウンセリングサービスを始めた理由に、他社にはない差別化要素があったんだけど、顧客のニーズがサービスに追い付いていないという実感を得て、『まだ自分の会社は規模拡大する時期に達していない』と考えた。では、どうやったらスタートアップの規模を拡大することができるのか?、勉強したくなった」

― そしてWhartonはじめいくつかのビジネススクールに出願。

「キャリアが珍しかったので、過去の話をするのは少し大変だったけど、何を学びたいか明確だったので、出願プロセスはそこまで苦労しなかった。志望校に関しては、WhartonかStanfordに行きたかった。」

― 起業を志している人がStanfordを志望するのは一般的だけど、Whartonを志望していた理由は?

「Whartonのブランド力は中国でも非常に強いので、起業した際に顧客に信用してもらえる。そして、Whartonは起業家教育に力を入れている。受験時に在校生に話を聞いたところ、スタートアップを志す人が利用できるリソースが多くあることが分かった。また、会計やファイナンスをはじめとした授業のクオリティの高さも志望理由のひとつ。会計やファイナンスの専門家になるつもりはないが、経営に必要なツールなので学習したいと思っている。こういった要素を総合的に鑑みると、Whartonは非常にいい選択だった」

― スタートアップを志す人向けのリソースというのはどのようなもの?

「まず、スタートアップが利用できるLabがある。そして非常に活発なEntrepreneurship Club。起業アイディアを同級生と議論し発展させることが出来る。また、教授が非常に協力的。Wharton発の眼鏡会社、Warby Parkerの創業者はPricing StrategyやMarketingについて教授に指導を仰いだ結果、起業アイディアが先鋭化され、今の成功に至っている。他にも、Semester in San Franciscoも大きなアドバンテージ。西海岸で人脈を構築することが出来る」

Whartonでの生活

― 有難う。晴れてWhartonでのMBA生活が始まって9か月経つけど、ここまでどういう感想?

「Whartonで気に入っているのは、多くの選択の機会に恵まれていること。仲良くなる人、ランチタイムに開催されるセッション、授業、Club等、大きな学校なので多様な選択肢がある」

― 何か苦しんだことはある?

「グループワークが多いので、当初苦しんだ。振り返ると学習も会社経営もチームで協力するスタイルではなく、自分の力で切り開くスタイルだったので、グループワークをしないといけないというのはどうも慣れなかった。過去ファイナンス、会計、統計等の必修クラスで学ぶ知識を全く学んだことがなかったというのも一因」

― 課外活動はどういうものに参加した?

「Dance Studio(学生がダンスを大勢の人の前で披露するクラブ)に参加したんだけど、COVID-19の影響で公演が中止になってしまい、残念だった。その他は多くの文化系クラブに参加した。Asian American Association、Greater China Club、Wharton African Student Association, Southeastern Asia Clubなど。これらのクラブを運営している学生たちは自分たちの文化を伝えることに非常に熱心なので、イベントに参加するのがとても楽しい。Whartonコミュニティはとても多様性に満ちている。」

9月のパーティーで同級生と(左から3人目がRita)

― 充実した学生生活を送っていたように思えるけど、春学期は休学したんだよね。

「そう。沢山の選択肢があったことは素晴らしかったんだけど、一つひとつの機会の意味を理解してどれを選ぶのか決めるのが難しかった。”FOMO (“Fear Of Missing Out”の略語で、周囲の多くの人たちがしていることや参加している機会を、自分だけが逃してしてしまうことへの恐怖を指す)”っていうけど、『機会を逃したくない』という気持ちに突き動かされて飛び込むことはあれど、果たして自分が本当にそれをしたいのか判断がつかない状態が続いた。一度時間をしっかり取って周りに左右されない自分の軸を作りたかった。MBAに来る人には自分が大切にしている価値観をしっかり理解してから来ることをお勧めしたい。キャリアについて明確に決まっている必要はないが、時間の過ごし方や好き嫌い等、自分の価値観の軸を持っていた方がいい。

私が体験した例で言えば、グループワークをしていて周りのメンバーが私よりも遥かにエクセルスキルに優れていた。私は当時とても焦ってエクセルすらできない自分を責めたが、ひと呼吸おいて考えたら『そもそも私はエクセルを学ぶためにWhartonに来たわけではない。また、自分がエクセルができなくても会社の経営はできる』と気付いた。優秀な人が沢山いるだけに、ストレスを感じる可能性はあるが、自分の価値観が定まっていれば大丈夫」

Gap Semesterでの発見・Wharton卒業後のプラン

― 休学中は何をしていたの?そして、価値観は定まった?

「親友とハワイに行ってサーフィンをした。夜は彼女と語り合った。自然に身を委ねて豊かな気持ちになった。その後、カリフォルニア州ヨセミテ国立公園でハイキングをした。もっと旅行する予定だったけど、新型コロナウイルス感染拡大を受けて途中で切り上げ実家に戻った。実家では草花を育てた。そうしているうちに自分の価値観が定まってきた。それは、やはり自分は教育と啓蒙に興味がある、というものだ。それも、受け手が自らの価値観を定め、自己認識を向上するような教育・啓蒙。中国におけるプレッシャーの高い教育環境で自己認識が不足していることから自分を見失う学生が多いが、自己認識を高めることで心理的独立を獲得し、自己実現できると思っている」

ヨセミテにて

― 価値観が定まったのは素晴らしいことだね。休学から復帰する今年の9月からはどのような活動に集中していきたい?

「授業では、ファイナンスや会計に加えてPricing Strategy、Marketingを中心に取りたい。また、これまでは自分の若さや皆と異なるバックグラウンドに対する負い目、自分の考えや経験をあまりシェアしなかった。でも、今は自分の考えや経験を自信を持ってシェア出来るし、それに価値を見出してくれる同級生がいると思っている。だから、Storytellersや各クラブが開催するSmall Group Dinnersに参加したい」

― 卒業後のプランは?

「具体的にどのようなビジネスを立ち上げるかはまだ構想中。多くの人に心理的にポジティブな影響を与えられるインフルエンサーになれれば、と今は考えている。中国でライフスタイルを紹介するブログやWeChatチャンネル、そして起業家にインタビューするPodcastを現在運営中で、まずはこれらを足掛かりにする。キーワードは自己認識と自己成長。まだ中国では小さな市場だが、伸ばすことができると思う」

― 素晴らしい計画だね。応援しています!今日は時間を取ってくれてありがとう!

草木からもエネルギーをもらった

Whartonというと、ファイナンススクールというイメージを持つ方が多いと思いますが、最近は起業にも力を入れており、Ritaが言う通り豊富なリソースを有しております。起業というとStanfordをはじめとする西海岸の学校のイメージが強いと思いますが、起業に興味がありMBAをご検討の方は是非Whartonも選択肢に入れていただけますと嬉しく思います。

また、今回は学生生活の生々しい話が聞けました。機会が豊富にあるからこそ自分を見失う恐れがある、というのは言いえて妙だと思います。MBA受験を控えている皆様は出願プロセスを通じて自らの価値観を問うてみてはいかがでしょうか。お手伝いができるのであれば可能な限り力を尽くしますので、ご相談いただければと存じます

(終)